これまでに20年以上たくさんの生徒を見てきましたが、一般的なTOEICスコアの認識と実際の英語力にはかなり差があるように感じます。
たとえば、TOEIC900点ときくと「ネイティブレベルの英語力」を想像しますが、実際にはTOEICで900点オーバーでも「会話の中で単語が出てこない」という方もいます。
しかし、TOEICスコアは多くの企業で採用や昇進の条件に設定されています。
実際、企業の新卒採用、中途採用、海外赴任や昇進において、どのくらいのスコアが求められているのか、500社以上を対象としたデータをもとに検証します。
この記事では、TOEIC受験者の平均スコアやスコア分布、スコアごとの英語力とおすすめの勉強方法、企業において求められるスコアについて解説します。
TOEICスコアとは
TOEIC(トーイック/トイック)とは「Test Of English for International Communication」の略称です。
日本語にすると「国際的な意思疎通のための英語のテスト」となります。
日本でのテスト運営を担当する国際ビジネスコミュニケーション協会のWebサイトでは、TOEICは「オフィスや日常生活における英語によるコミュニケーション能力を幅広く測定します。」とありますが、実際の受験者は、就職活動をひかえた大学生や、業務で英語が必要な社会人がもっとも多いです。
日本のビジネスの場で高く評価されるテストであるといえるでしょう。
世界では160カ国で年間約700万人が受験しているといわれていますが、受験者数を国別にみてみると日本が1位で、韓国が2位となっています。
2019年のデータによれば日本国内のTOEIC受験者数は年間約241万人、韓国では約200万人です。
この2カ国だけで64%以上(約3分の2)を占めています。
TOEICスコアはどのように表される?
TOEICのスコアの表し方はテストの種類によって違います。
テストの種類・スコアの表し方は以下の4種類です。
TOEIC
- TOEIC Listening & Reading Test:リスニングセクション(5~495点)とリーディングセクション(5~495点)の合計(10~990点)でスコアを表します。
- TOEIC Speaking & Writing Tests:スピーキングセクション(0~200点)とライティングセクション(0~200点)の合計(0~400点)でスコアを表します。
TOEIC Bridge
- TOEIC Bridge Listening & Reading Tests:リスニングセクション(15~50点)とリーディングセクション(15~50点)の合計(30~100点)でスコアを表します。
- TOEIC Bridge Speaking & Writing Tests:スピーキングセクション(15~50点)とライティングセクション(15~50点)の合計(30~100点)でスコアを表します。
もっとも普及しているのが、TOEIC Listening & Reading Testです。
TOEIC Speaking &Writing Testsはまだまだ知名度は低いですが、英語によるコミュケーション能力を求める流れもあり、少しずつ受験者数が増加しています。
TOEIC Bridgeは初中級者向けになっており、内容はビジネスというよりも日常生活における英語が中心です。
受験者は年間16万人程度で横ばいの状態が続いており、あまり増えていません。
TOEICスコアの確認方法
TOEICスコアは、TOEIC公式サイトから確認できます。
確認の手順は以下のとおりです。
- TOEIC申込みサイトにログインのうえ、各テストの「テスト申込・結果確認へ」ボタンをクリック
- IDとパスワードを入力して、「ログイン」をクリック
- ログイン後、「テスト結果表示」をクリック
結果の確認・テスト結果の発送はテストの種類によって異なり、以下のように違いますのでご注意ください。
- L&R:ネット申込みなら17日後にWeb上で確認可能、公式認定証は30日以内に発送
- S&W:ネット申込みなら17日後にWeb上で確認可能、公式認定証は30日以内に発送(Sのみ受験も同様)
- Bridge L&R:Web上での確認は不可、公式認定証は35日以内に発送
- Bridge S&W:Web上での確認は不可、公式認定証は35日以内に発送
TOEIC Bridge以外は公式認定証の到着よりも前にWeb上で結果を確認できます!
早めに結果が知りたい方は、ネットでの確認を活用しましょう。
TOEIC受験者の平均スコア
TOEIC L&Rの受験者の平均スコアは実施回によって異なりますが、近年の目安としてはリスニングセクション330点、リーディングセクション280点の620点ほどです。(2021年6月時点)
2018年ぐらいの平均点は585点ぐらいだったため、平均点は上がっている傾向にあります。
平均点が上がっている原因については、以下のような理由が考えられます。
- 新型コロナウイルスの拡大によりライト層の受験者が減少した
- TOEICの知名度が向上するにつれて、良質な対策本やアプリが増えて受験者が対策しやすくなった
TOEIC受験者のスコア分布
2021年5月23日に行われたTOEICのスコア分布は以下のとおりです。
受験者の中でもっとも多いのは595点から645点の範囲です。
それ以降はどんどん人数が減っていくので650点が1つのボーダーとなっており、650点以上から難易度が高くなるといえるでしょう。
とくに800点以上や900点以上は極端に人数が少なくなるので、800点や900点を突破するには大きな壁があることがわかります。
TOEICスコアからみる必要な学習時間
スコア分布のデータからもわかるとおり、TOEICにおけるスコアの壁は650点、800点、900点の3つがポイントになります。
実際にそのレベルに到達するまでに、どの程度の学習時間が必要なのかが気になる方も多いでしょう。
TOEICにおいて目標スコアを達成するうえで必要となる学習時間については、1985年の調査『Saegusa 1985』があります。
しかし、以下の2つの問題点があります。
- 2006年と2016年の改定により、TOEICの問題形式は1985年当時と大きく変わっている
- 対策本やアプリの充実により、学習効率の面でも1985年当時とは状況が大きく変わっている
そこで、2020年に英語学習ひろばが調査した結果にもとづき、目標スコアごとの学習時間について解説します。
650点までは100点アップにつき170時間であるのに対し、650点から先は学習時間が増加しています。
やはり650点は「TOEIC受験者がはじめてぶつかる壁」といえるでしょう。
また、850点、950点を取得するのに必要な学習時間をみると、100点アップにつき200時間を超えています。
実際、このあたりはそれまで順調にスコアを伸ばしてきた方であっても、多くの受験者が伸び悩む時期です。
英語を学習する中では伸び悩むタイミングもありますが、1つ壁を越えたときには大きくレベルアップしているはずです!
TOEICスコアから英語力を測る
就職や転職の採用、大学の入学試験など、TOEICスコアから英語力を測る機会は多くあります。
テストを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会は、スコアごとの英語力の目安について資料を提供していますが、長年にわたって英語学習者の方々をみていると、この目安はあまり実情に即していないようにも思えます。
以下では、TOEICスコアごとにテストを運営するIIBCの公式の評価と実際の英語運用力、おすすめの勉強法を解説します。
TOEIC400点の英語力
IIBCの公式評価では、400点以下の方には言及されていませんが、実際には以下のとおりでしょう。
- まだ、英語の初学者・初級者の段階で、基本的な単語や文法にも不安がある。
- 簡単なフレーズは話せるものの、リスニング力の不足などにより意思の疎通は難しい。
- 「読む」「聞く」「話す」「書く」、4技能のすべてにおいて仕事で使うレベルには達しておらず、メールのやりとりも調べながらでないと進められない。
ここからの勉強法としては、TOEIC用の問題集を解いてもわからない単語や文法が多いため、中学・高校レベルの文法参考書・単語集で勉強を始めることをおすすめします。
中学生レベルの内容に穴がある可能性が高いので、無理をせず中学校レベルから復習するようにしましょう!
TOEIC500点の英語力
IIBCの公式評価をまとめると以下のとおりです。
リーディングでは、あまり広くない範囲を読む必要がないときや文章中に使われているのと、同じ表現が問題に使われているときに、問題に正答できる。
また、簡単な語彙は文法は理解できるが、難度があがるまたは複雑な文法構造は理解できない。
リスニングでは、写真描写・短い会話・長い聴解文において、語彙が簡単だったり、解答に必要な情報が明確に提示されている場合、理解し正答することができる。
実際の英語力としては、以下のとおりです。
- 400点レベルの方と比べると、リーディングで理解できるフレーズや文は増えてくるものの、リスニング・スピーキングの面では実際に仕事に使うレベルとは隔たりがある。
勉強法としては、高校生レベルの文法書や単語帳に取り組みましょう。
また、同時にTOEIC対策用の問題集・単語集にも取り組むことで、短期的にスコアアップを狙えます。
500点レベルではリスニング力が足りない方が多いので、音声つきの教材で発音を確認しながら音読をするようにしましょう!
TOEIC600点の英語力
IIBCの公式評価では500点以上の英語力と同じになります。
しかし、実際の英語力では500点と600点ではかなり差があります。
600点の方の英語力は以下のとおりです。
- いわゆる英語初心者ではなくなり、簡単な洋書が読めたり、海外旅行でコミュニケーションがとれたりするようになる。
- 仕事で不自由なく英語を運用できるというレベルには到達していない。
勉強法としては、TOEIC対策の教材を用いた問題演習、音読などがよいでしょう。
とくにリスニング力を伸ばしたい方は市販の発音のテキストを1冊仕上げておくと、リスニング力の伸びが加速します。
基本的に、発音できない音は聞きとれるようにはならないので、発音も強化しましょう。
ここまでくればビジネスで英語を使用できるレベルまであと1歩です!
TOEIC700点の英語力
IIBCの公式評価をまとめると以下のとおりです。
リーディングでは、文章に使用されている語彙や文法が難しいときでも、文章の限られた範囲内では情報を関連付けることができ、中級レベルの語彙・難しい文法構造が理解できる。
リスニングでは、短い会話・長い聴解文において中級レベルの語彙が理解できる。
また、情報が少し言い換えられたとしても理解できる。
700点レベルの方の英語力は以下のとおりです。
- ネイティブの話す内容がある程度聞きとれるようになる。
- 英語の簡単な記事なども読めるようになる。
- 基本的な英語の運用において困ることも少なくなり、英語力がついてきたことを実感できる。
勉強法としては、TOEICの問題を繰り返し解くことも重要ですが、英文の記事を読んだり、CDやポッドキャストなどでより自然な英語の音声を聞いたりする練習も並行して行いましょう。
ネイティブが実際に使っている英語に触れることで英語に対する理解が高まり、英語力を伸ばすことができます。
このレベルまでくると、ネイティブが日常的に見聞きしているニュースやラジオで学習することもできます!
TOEIC800点の英語力
IIBCの公式評価をまとめると以下のとおりです。
リーディングでは、文章の目的、詳細が推測でき、単語・表現の言い換えがあっても情報が理解できる。
あまり使われない語句・幅広い語彙・多義語などを理解できる。
リスニングでは、短い会話や長い聴解文を、簡単には予測できなかったり、情報の繰り返しがなかったりする場合も理解できる。
800点レベルの方の英語力は以下のとおりです。
- 英語の読解・聴解ではかなり理解できることが増えてくる。
- 仕事で運用するとなると、まだライティング・スピーキング・リスニングについては十分ではない可能性が高い。
800点レベルになると、普通にTOEICの問題集を解いているだけでは伸びが感じられなくなってくるので、アウトプットの練習もするとよいでしょう。
たとえば、オンライン英会話などを取り入れると、黙々と机に向かうときとは違った刺激があり、学習も継続しやすくなります。
また、800点から上のスコアを目指す場合、リーディングを最後まで読み終えることが非常に大事になってきます。
そのためには、まず自分の読むスピードを測ることが重要です。
Words per minute(以下WPM)といって1分間に何単語読めるかの指標がありますので、TOEICと同程度の難易度の文章を読んでみて1分間あたりの単語数を数えてみましょう。
TOEICのリーディングを時間内にすべて解き終えるにはWPM150~200が必要といわれていますが、実際は問題と文章を見比べる時間などもありますので最低でもWPM200は必要でしょう。
読解力や語彙力の面では十分な力がついているので、速く正しく読むことを重視していきましょう!
TOEIC900点の英語力
IIBCの公式評価では、800点と900点は同じ評価とされています。
しかし、実際は両者の英語力にはかなりの隔たりがあり、900点レベルの英語力は以下のとおりです。
- 日常的な会話のスピードであれば聞き取れなかったり、理解できなかったりする部分は少ない
- 学術的な内容や難解な文章を除けば、英語の文章を読んで理解できない内容はほとんどない
- 一方で、スピーキングやライティングの能力については個人差があり、自信がない人も非常に多い
リーディングやリスニングの面では十分な実力がついているので、苦手な分野を中心に練習するとよいでしょう。
とくに、日常や仕事で話す機会が無い方は、オンライン英会話などを活用してアウトプットを意識的に増やす必要があります。
英検、TOEFL、IELTSなど、スピーキングやライティングを含む英語試験に挑戦してみるのもおすすめです!
TOEICをその他の語学試験のスコアに換算
TOEICのスコアとほかの語学試験のスコアを比較する際は、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)が参考になります。
CEFRとは、さまざまな言語が使用されているヨーロッパ圏において、言語の習得状況を示す指標として考案されたもので、あらゆる試験のスコアから言語の運用能力をクラス分けしています。
ただ、テストによってスピーキングやライティングがなかったり、個人による違いがあったりするため、あくまで1つの例としてとらえてください。
CEFR | TOEIC L&R | 英検 | IELTS | TOEFL IBT |
C2 | 8.0~9.0 | |||
C1 | 945~ | 1級 | 7.0~8.0 | 95~120 |
B2 | 785~ | 準1級 | 5.5~6.5 | 72~94 |
B1 | 550~ | 2級 | 4.0~5.0 | 42~71 |
A2 | 225~ | 準2級 | 3.0 | |
A1 | 120~ | 5級~3級 | 2.0 |
TOEICと英検を比較
CEFRをもとにTOEICと英検を比較すると、英検1級合格=TOEIC945点以上、英検準1級合格=TOEIC785点以上、英検2級=TOEIC550点以上となります。
目安としてはわかりやすいですが、TOEICが2技能のみを測る試験であるのに対し、英検は4技能すべてを測る試験である点には注意が必要です。
スピーキングやライティングを含めた英語の運用能力という点では、単純には比較できないでしょう。
TOEICとTOEFLを比較
TOEFLは、TOEICの運営団体であるIIBCが作成しています。
そのため、両者には文法・語法の問題があるなど、少し似ているところがあります。
また、大学によって大きく違いがありますが、海外大学の留学に求められる70点以上がおおよそTOEICでは785点になります。
TOEICとIELTSを比較
IELTSは主にイギリスやオーストラリアへの留学で必要とされ、大学や大学院の留学では6.0~6.5が基準となるケースが多いです。
CEFRにもとづいてTOEICスコアに換算すると785点以上が該当しますが、TOEICとIELTSでは問題形式が大きく異なるため、注意が必要です。
TOEICは就職活動や転職に活かせる?
「TOEICは就職に有利だから、点数をとっておいたほうがよい」や「企業の採用では、TOEICの点数がみられている」とよくいわれています。
以下では、就職や転職で求められるTOEICスコアの基準について紹介します。
TOEICスコアを入社基準にしている企業はどれくらい?
以下の表は、企業や団体においてどれくらいTOEICが活用されているのかを示しています。
採用の表をみると、新卒採用において49.1%の企業がTOEICスコアを要件、または参考にしていると回答しています。
なお、英語を使用する部署の中途採用においては、TOEICスコアを要件とする割合が新卒採用と比べて倍以上となっています。
また、社員・職員に期待しているTOEIC L&Rのスコアは、新入社員で535点以上、中途社員で560点以上、海外部門では690点以上です。
就職・転職の際にある程度のTOEICスコアを保持しておくことは重要といえるでしょう。
とくに海外部門で仕事をしたいと考えている方は、新卒で就職する際に最低でも700点を目標にするとよいでしょう。
さらに条件の厳しい外資系企業や商社では、TOEICで800点から900点前後のスコアに加えて、英語による会話力を求められる場合もあります。
英語で面接を実施する企業もありますので、確認してから就職活動に臨みましょう。
昇進・昇給に求められるTOEICスコア
入社したあとに、昇進や昇給を判断する基準としてTOEICスコアが求められることもあります。
国際ビジネスコミュニケーション協会の調査によれば、役職によって差はありますが、20%~35%の企業が要件または参考としていると回答しています。
また、10%以上の企業が新たに要件・参考とする可能性があると回答しています。
今後、さらに多くの企業において昇進・昇格の際にTOEICスコアが必要となる可能性が高いでしょう。
外資系や海外赴任で求められるスコア
海外出張では38.6%、海外赴任者では50%の企業がTOEICスコアを要件、または参考としていると回答しています。
海外赴任を目指す場合は、TOEICは受験してある程度の点数を取得しておいたほうがよいといえるでしょう。
就職や転職でTOEICスコアを重視する傾向はさらに強く!アウトプットも忘れずに
TOEICは、日本国内における知名度が高く、英語力を証明するためには非常に役に立ちます。
また、企業の認知度や評価も高いので、TOEICでスコアを取得しておくと就職・転職にはとても有利です。
しかし、TOEIC L&Rの弱点として、スコアが高い=SpeakingやWritingの英語の運用力が高いといえない点があります。
海外赴任や外資系で働くなど、英語を使って仕事をしたいと考えている方は、英語の運用力もつけられるようにTOEIC対策だけではなく、英語でのアウトプットも意識して日々の学習に取り組みましょう。