TOEIC(トーイック/トイック)とは、Test of English for International Communicationの略称です。
日本語に訳すと「国際コミュニケーションのための英語試験」となります。
大学入試や就職、転職にも利用できる資格試験として知られており、2020年度は169万人が受験しています。
この記事では、TOEICの概要や受験者のレベル、メリットやデメリット、学習法について解説します。
TOEICには5種類の試験がある
「どのTOEICを受けるべきですか?」
TOEICの受験を考え始めた生徒さんからよく聞かれる質問です。
たしかに、TOEICにはいくつかの形式があり、はじめて申し込むときには分かりづらいかもしれません。
一般に「TOEICを受けたよ」といったら、それはもっとも受験者数の多いTOEIC Listening & Reading Testを指します。
TOEICには5つの種類のテストが用意されています。
以下では、種類ごとの特徴について解説します。
TOEIC Listening & Reading Test
TOEIC Listening & Reading Testはリスニングとリーディングのテストです。
リスニングは、4つのパートに分かれています。
放送内容は、日常生活のごく一般的なワンシーンやビジネスシーンを題材にしたものが多く、コミュニケーション能力を重視しています。
リーディングは、3つのパートに分かれており、文法力、語彙力、読解力が問われます。
スコアは、リスニングセクション、リーディングセクションともに5~495点、トータルで10点~990点で評価されます。スコアの評価は5点きざみです。
TOEIC Speaking & Writing Tests
TOEIC Speaking & Writing Testはスピーキングとライティングのテストです。
スピーキングの試験は対面式ではなく、パソコンとヘッドセットを使って受験します。
前提として「グローバル社会」で活躍できるコミュニケーションツールとしての英語力を測定するテストであるため、内容も実社会が想定された話題になっています。
具体的には、スピーキングでは以下の2つの能力が試されます。
- 仕事上必要なやりとりをするために適切な表現を選択し使うことができるか
- 一般的な職場において筋道の通った継続的なやりとりができるか
また、ライティングでは、以下のような内容が出題されます。
- 簡単な状況描写
- Eメールの返信
- あるテーマに対する、論理的な意見の記述
スコアはどちらも0点~200点、10点きざみで評価されます。
TOEIC Speaking Test
TOEIC Speaking Testは、英語で話す能力のみを測定するテストです。
TOEIC S&Wのスピーキングだけを受験する形の試験です。
問題数および試験時間は、TOEIC S&Wのスピーキングと変わりません。
受験料は、6,930円(税込)です。
TOEIC Bridge Listening & Reading Tests
TOEIC Bridge L&Rは、通常のTOEIC L&Rのベーシック版と考えて問題ありません。
基本問題が多く含まれ、問題数も少ないです。
いきなりTOEIC本番を受けるのは気が引けてしまう英語初修者の方に向いています。
試験時間が合計60分という点も気軽に受験できるポイントです。
点数は、それぞれ15点~50点が1点きざみで評価され、合計30点~100点です。
TOEIC Bridge Speaking & Writing Tests
TOEIC Bridge S&Wは、通常のTOEIC S&Wのベーシック版と考えて問題ありません。
英語初級、中級者の「話す」「書く」英語力を測るための試験です。
スピーキングは8問を約15分、ライティングは9問を37分で解答します。
スコアは各15~50点、1点きざみの採点で、トータル30点~100点です。
TOEIC S&Wと同じく、試験会場でパソコン・ヘッドセットを利用して受験します。
TOEICの特徴
TOEICは、米国ニュージャージー州プリンストンに拠点を置くETS(Educational Testing Service「教育試験サービス」)が作成しています。
ETSは、ほかにTOEFLやSAT(全米大学入学共通試験)などを作成する世界最大の非営利テスト開発機関です。
日本におけるTOEICは、IIBC(国際ビジネスコミュニケーション協会)によって運営されています。
TOEICの特長を端的に表すと、まずグローバルスタンダードとしての価値です。
世界160か国で実施され、地域性や文化によって評価に不公平性が生じないように、特定の文化の知識なしでは理解できないような表現は控えられ、世界中の誰もが公平に英語力を測定することが可能です。
そのため、世界中で英語力を示す価値基準としての地位を得ています。
英語力をスコアで算出
TOEICは英検などとは異なり、合否が出るテストではありません。
前述したようにテストの種類により満点は異なりますが、結果はすべてスコアで表示されます。
たとえば、もっとも受験者が多いTOEIC Listening & Readingは、各5点~495点、トータル10点~990点が5点きざみで評価されます。
以下は、TOEIC・TOEIC Bridgeのスコアに関する一覧表です。
最近の実施回のデータをもとに、受験生の平均スコア、最高スコアと最低スコアをまとめています。
試験内容 | Listening | Reading | Speaking | Writing |
スコア | 5~495点 | 5~495点 | 0~200点 | 0~200点 |
平均点 | 332.1点 | 291.1点 | 31.1点 | 36.1点 |
最高点 | 495点 | 495点 | 200点 | 200点 |
最低点 | 5点 | 5点 | 15点 | 15点 |
試験内容 | Listening | Reading | Speaking | Writing |
スコア | 15~50点 | 15~50点 | 15~50点 | 15~50点 |
平均点 | 31.1点 | 36.1点 | 35.3点 | 41.2点 |
最高点 | 50点 | 50点 | 50点 | 50点 |
最低点 | 15点 | 15点 | 15点 | 20点 |
ただし、このスコアは正答数をそのまま表す素点でありません。
TOEICでは、スコア基準の不変性を確保するために、素点に同一化(Equating)という統計処理を加えてTOEICスコアに換算しています。
これによって、受験機会による評価のズレをなくしています。
スコア基準の普遍性…難しい言葉ですが、要は「受験回の難易度によってスコアが変わらないようにしている」ということですね!
コミュニケーション能力を測れる
TOEICの評価する英語力とは、コミュニケーション能力です。
リーディングセクションには、文法問題も含まれますが、知識・教養としての英語ではなく、あくまで家庭や職場における日常的なコミュニケーション能力が評価されます。
そのため、リスニングセクションにおける対話の内容でも、リーディングセクションにおける長文内容でも実生活や仕事上のやりとりが題材として取りあげられています。
たとえば、リスニングでは、職場のミーティングの議題やそのために準備するべきものが会話の話題とされたり、リーディングの長文読解では、公的施設の予約方法や注意点を問い合わせるEメールが題材となったりします。
この傾向は、スピーキングとライティングにおいても同様です。
以下のように日常生活に根差した内容が多く取りあげられます。
- 混雑した道路の様子を伝える英文
- タイヤがパンクして困っている状態を伝える英文
実際に私の知り合いは、アメリカでの留学中にホストファミリーから借りた車がパンクしてしまい、電話でその状況を説明するのにひどく苦労したそうです…。
「そのときに学んだ単語は忘れない」と言っていました。
TOEICを受験するメリット
TOEICを受験するメリットには、次のようなものがあります。
- 現状の英語力を把握できる
- 将来設計のきっかけになる
- ビジネスにおける実践的な英語力を養える
もちろん、このほかにも英語力の向上、文化の理解などのメリットがありますが、以下では3つのメリットについて解説します。
英語力を把握できる
TOEICは、スコアの同一化(Equating)という独自の統計処理を加えており、テストごとの難易度の差によるスコアのブレを極限まで小さくしています。
そのため、わずかな成長も可視化でき、自分の現在地をテストごとに正確に把握できます。
ちなみに、TOEICスコアとほかの英語試験を比較する場合は、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)が役立ちます。
CEFR | A1 | A2 | B1 | B2 | C1 | C2 |
TOEIC Listening | 60~105 | 110~270 | 275~395 | 400~485 | 490~495 | ー |
TOEIC Reading | 60~110 | 115~270 | 275~380 | 385~450 | 455~495 | ー |
TOEIC Speaking | 50~80 | 90~110 | 120~150 | 160~170 | 180~200 | ー |
TOEIC Writing | 30~60 | 70~110 | 120~140 | 150~170 | 180~200 | ー |
IELTS | ー | ー | 4.0~5.0 | 5.5~6.5 | 7.0~8.0 | 8.5~9.0 |
英検 | 3級~準2級 | 準2級~2級 | 2級~準1級 | 準1級~1級 | 1級 | ー |
進学、就職、転職に有利になる
TOEICには、もともと日本企業の海外進出が急増した1970年代に日本の企業、つまり、日本側の要望によって開発が決定したという歴史があります。
海外に赴任する社員がコミュニケーションで苦労しないような、効果的な学習システムの必要性から、海外赴任に適する人材の採用基準となってきたわけです。
英語を社内公用語にする企業や、海外企業との業務の多い企業の中には、昇進や役職の条件としている企業も少なくありません。
また、教育改革において英語の4技能強化が叫ばれる昨今、入試にTOEICを活用する大学も増えています。
基準は「TOEIC L&R」のみや「TOEIC L&R + S&W」の両方など、さまざまです。
TOEIC L&R のみで500点(英検2級程度)くらいから、出願資格、得点換算、加点などの方法で活用され始めています。
たとえば、ある私大の出願資格型ですと、一定のTOEICスコアを取得した受験生に限り、入学試験を1科目や2科目のみで受験できる資格を与えています。
早い段階で基準をクリアしていれば、受験本番までの期間を1~2科目の学習に集中できるという状況は、合否に大きく影響するでしょう。
TOEIC IPテストのスコアは不可としている大学も多いので、事前にしっかり規定を確認しておきましょう!
ビジネスシーンで活用できる表現が身につく
TOEICのテストでは、数多くのビジネスシーンが登場します。
そのため、受験してスコアを取得するだけでなく、受験するために問題集や過去問を解いて知識を蓄えることにも意義があります。
就職や転職、大学受験のためにTOEICのスコアをあげようと努力することが、実践的な生きた英語表現の習得につながります。
グローバルな会社で活躍したいと考える学習者にとっては大きなメリットがあるでしょう。
TOEICのデメリット
一見、メリットの多いTOEICですが、受験を推奨できないケースもあります。
たとえば、リアルな実践英語の習得を目指すTOEICでは、リスニングで話される会話はナチュラルスピードに近く、慣れていなければ、一文も理解できないという可能性もあります。
いくら大学受験で有利になるとはいえ、英検2級のリスニングで苦しんでいる高校生にはおすすめできません。
また、TOEICでは学ぶことができない英語表現も数多く存在します。
テストにふさわしくない不適切な単語、表現はTOEICには出てきません。
それが友人どうしの会話では日常的によく使うスラングであってもです。
また、宗教や政治など個人信条に関連するような話題と、それに付随する表現も避けられています。
スコアアップにはテクニックや対策が必要
TOEICのスコアアップを目指すうえで、最初にぶつかるのはリスニングの壁でしょう。
普通の英語のスピードに慣れるには、長時間の英語の聞き取り、多聴が必要です。
TOEIC特有のリスニング問題形式に慣れる必要もあり、英語力とは別のテクニックも求められています。
また、リーディングにも速読の壁があります。
TOEICと並んで有名な英検では、制限時間に解き終わらないことはあまりありません。
しかし、TOEICでは最後まで解ききることができない人の方が多いです。
ただし、いったんその壁を超えることができると、TOEICの点数は急激にあがります。
TOEICには行間を深読みしなければ解けないような思考問題はありません。
単純にコミュニケーション能力だけが問われます。
対策に時間がかかることはデメリットですが、その壁を越えたときの利点は大きいはずです。
海外でのアピールには向いていない
TOEICは、全世界160か国で実施されるグローバルスタンダードなテストですが、日本側の要望で開発されたという経緯もあり、受験者のうち30%以上が日本人です。
そのため、海外での有効性を疑問視する意見もあります。
実際、アメリカの大学を目指すのであれば、同じETSが作成しているTOEFLの方が汎用性も高いでしょう。
また、イギリスの大学や企業では、ケンブリッジ英検やIELTSなどの資格試験の方が多く利用されています。
海外の企業や大学を目指している場合は、自分の目標に合わせた試験を選びましょう!
TOEICの点数と英語力の関係
IIBCのホームページには「TOEICスコアとコミュニケーション能力レベルの相関表」として、以下のProficiency Scaleが掲載されています。
このガイドラインはおおむね正しいでしょう。
たしかに
「700点取れたのにアメリカでは英語が全く通じなかった」
「900点でも海外とのオンラインミーティングはいつも震える」
などの声はよく聞こえてきます。
しかし、その話を鵜呑みにして、TOEICの点数は英語力と関係ないと断定するのは軽率です。
私の経験からすると、TOEICで700点以上の実力がある人は、少し海外で経験を積めばすぐに実力を発揮できるようになるという印象です。
たとえば、TOEICを日本でしっかり勉強して800点取得した人と、400点しか取得できなかった人が同時にアメリカのビジネス実践の場に放り投げられたとします。
半年後のその2人のビジネスマンとしての戦力には格段の差はついているものと私は断言できます。
当然、TOEICで高い点数をとっている人の方が実践的な英語力を速く身につけられます。
「あのときはああ言えばよかったのか」
「この表現が誤解のもとだった」
「どの単語を使えばもっと早く理解してもらえたのだろうか」
などと、実践の中で反省や自問自答の経験を積み重ねてはじめて、ビジネスシーンでひるまない実力が備えられます。
400~600点の英語力
高校で英語がやや得意の部類に入るというレベルです。
いくつかの大学入試では、受験資格や換算点、加点として利用できるでしょう。
しかし、就職においてはややアピールにかけるスコアです。
昇進や役職の条件としては不足する企業が多いでしょう。
600~800点の英語力
英語力があると自負できるレベルです。
英語を母国語とする国で、ある程度ネイティブとの交流する経験をつめば、不自由なく通常の生活ができるレベルです。
大学入試では、大きなプラス材料となるでしょう。
就職においてもアピール材料となります。
多くの企業で昇進や役職の条件として認められるでしょう。
800~900点以上の英語力
あらゆる状況で問題なく意思を伝えることができるレベルです。
就職や転職の際に、履歴書などに記入すると大きな効果が期待できるスコアでもあります。
ただし、ビジネスツールとしての英語をハイレベルに駆使するには、ある程度実践的な経験を必要とします。
TOEICの学習法
TOEIC対策にはさまざまな方法がありますが、いずれも英語の勉強であることに変わりはありません。
もちろん試験である以上、問題形式の把握や対策を練ることは有効ですが、TOEIC専用の特別な学習法は存在しません。
一般的な学習方法で十分です。
ただし、英語を駆使する道具となる単語や文法の学習は必須事項です。
以下では、TOEICスコアを上げるうえで効果的な学習法について解説します。
単語の学習法
必ずしもTOEIC専用の単語集を利用する必要はありません。
大学受験で利用した単語集の学習でも大丈夫です。
ただし、TOEICで頻出される単語もあります。
そういった単語は問題集を解きながら、1つずつ拾っていきましょう。
おすすめの勉強法は、未習の単語が出てきたときに周りの文章ごとノートやタブレットに転記して、1日に何度も眺めることです。
何度も見返して記憶に定着させることを習慣化しましょう!
文法の学習法
文法も単語と同じく、大学受験用の参考書や問題集で十分です。
5文型や文構造の理解、分詞や不定詞、接続詞や関係代名詞など、句や節の理解に力を入れると、リーディング対策に役立ちます。
また、ライティング対策では、ある状況設定を説明する表現を習得したうえで、意見を伝える練習が効果的です。
論理展開に必要なディスコースマーカーとなる語句をしっかり理解し、使えるようになることが大切です。
アウトプットの学習法
いくら大量に単語や文法事項を頭に詰め込んでも(インプット)、すぐにそれを実践で使える(アウトプット)わけではありません。
インプットとアウトプットは別物です。
アウトプットは一朝一夕にはうまくなりません。
そして、経験以上にその術を高める方法はありません。
TOEIC S&Wを受験するのであれば、試験内容を熟知した講師と、その試験形態に則したスピーキングレッスンを行いましょう。
講師は、ネイティブでも、バイリンガルでも、日本人講師でもかまいません。
また、レッスンごとに、学んだことを蓄積していく努力も怠らないようにしましょう。
スピーキングとライティングはアウトプットを繰り返せば必ず上達します!
公式問題集への取り組み
TOEICの学習でもっとも効果的なのは公式問題集への取り組みです。
市販されている問題集の中には、私の経験からすると「これではTOEIC対策にならないのでは?」と疑問符が頭の中に出てくるようなものもあります。
とくに初心者の方には、公式問題集でTOEIC特有の出題形式、出題意図、誤答選択肢の特徴を理解することをおすすめします。
それは自分だけの力では難しい部分もあるかもしれません。
そのようなときにはスクールに通ったり、オンライン授業の手助けを受けたりすることをおすすめしますが、その場合も、しっかりとしたTOEICの教授法が確立されている講師から学ぶことが重要です。
TOEICは大学入試や就活などで活用できる!
それでは、最後に記事の中でお伝えしたTOEICの特徴についてまとめます。
◆TOEICには5つの種類があり、それぞれに配点や問題数の違いがある
◆TOEIC L&Rがもっとも受験生が多く、資格として利用できる可能性が高い
◆TOEICは、スコアの同一化をしており、テストの難易度により評価がぶれないようになっている
◆TOEICは、合否の出るテストではなく、実力を客観的に判断できるものである
◆TOEICは、知識や教養のテストではなく、コミュニケーション能力を高めるためのテストである
◆就職や転職、昇進や役職の基準点などにTOEICを利用する企業が増えている
◆大学入試におけるTOEICの利用も増えている
◆TOEICでは学べない英語表現も多数存在する
◆TOEIC高得点=即戦力では決してない
◆もっとも効果的な学習は、公式問題集である
◆スピーキングは方法論を確立した講師と経験を積み上げることが大切
皆さんがTOEICで高得点を取得し、夢の実現に近づけることを祈っています!